MTG「マスターズ25」にも収録される赤の伝説天使クリーチャー
憤怒の天使アクローマ(Akroma, Angel of Fury)
のデザイン開発秘話がMTG公式サイトに掲載されました!
我々がどのようにして《憤怒の天使アクローマ》をデザインしたかを理解するためには、まずその元ネタになったカードについて話さなければならない。そのカードとは、これである。
ここで、『オンスロート』ブロックの物語に詳しくない諸君のために簡単に説明しておこう。
『オデッセイ』ブロックで、《ピット・ファイター、カマール》は《ミラーリ》(非常に強力な魔法のアイテムで、後にミラディンの次元を作ることになるが、それはまた別の話)から作られた魔法の剣を振るって悪を倒し、勝利をもたらした。その戦いの中で、ただの戦士だったカマールは思慮深いドルイドへと変化を遂げる。彼は彼自身が傷つけて行方不明になった妹のジェスカを探しに戻った。彼女は邪悪な陰謀団に囚われ、闇の治癒魔法を受けて、ただ触れるだけで死をもたらすフェイジへと変化していた。フェイジはピット・ファイティングで幻影術師のイクシドールと天使のニヴィアの2人と戦うことになった。2人は恋人同士で、その戦いはピット・ファイティングから自由になることを求めてのものだった。フェイジはニヴィアを殺し、イクシドールは彼の能力を悪用して囚われる。イクシドールは砂漠で生死をさまようが、彼の能力が彼自身が知っているよりも強いのだということに気がついた。彼の想像力から、彼はフェイジへの復讐を狙ってニヴィアに似せた天使のアクローマを作り出すのだった。
デザインはアクローマにカードとしての生命を与えることになった。彼女は復讐の具現なので、私はそのトップダウン・フレイバーを再現する方法を探すのにかなりの時間を費やした。一方そのころ、ビル・ローズ/Bill Roseは違う方法を選ぶことを決めていた。それに持たせられると考えられられたあらゆるクリーチャー能力を積み重ねたのだ。(開発部はこれを「流し台」クリーチャーと呼ぶ。慣用句の「everything but the kitchen sink/考えられる全て」に由来している。)
私はそのカードがアクローマというキャラクターにふさわしくないと考え、触れたものすべてを殺す存在と死なない天使の戦いという物語の上で演じた役割である死なない天使に寄せるよう強く推した。また、白が持つものだとは考えられていない、速攻を持たせるのも気に入らなかった。もちろん、私はこの論争に負けた。アクローマはその後、(フェイジともども)大人気のカードになった。(この話の詳細版は、アクローマ特集のときの私の記事(英語)で読むことができる。なぜその記事を書いたのかの話はこの後すぐ。)
そして数年後、我々が『時のらせん』を手がけていたときのこと。そのセットのクールなところの1つが、「タイムシフト・カード」として昔のカード枠(『ミラディン』以前の枠)を使って121枚のカードを再録していたことだった。タイムシフト枠にどの伝説のクリーチャーを入れるかを議論していた時に、あることを思いついた。
かつて、公式サイトの立ち上げに際して、私は「Head-to-Head」という企画を考えていた。何かテーマを出して、読者が毎日投票して選ぶというものだ。(私のTwitterをフォローしている諸君は、Twitterに投票機能ができた時に私がこの企画を現実のものにしたことを思い出したことだろう。)公式サイトで、ファンのお気に入りの伝説のクリーチャーを決める「Head-to-Head」を行なったらどうだろうか。本当の目的を隠すため、我々はその勝者の特集を開催すると宣言した。
その後、我々は64体の候補を選び、13週間かけて読者に投票してもらったのだ。最終的に勝ち残ったのは、アクローマだった。我々はアクローマを『時のらせん』のタイムシフト枠に入れ、公式サイトではアクローマ特集を開催したのだった。めでたしめでたし。本当に? 私は面白いことを思いついた。アクローマの話題を、ブロック全体に広げたらどうだろうか。『次元の混乱』は、もう1つの現実を扱っていた。アクローマを取り上げ、それを別の色に移すとしたらどうだろうか。
もう1つの現実として、もっともふさわしい色は何色だろうか。緑は大型飛行クリーチャーの色ではないし、理念的にも動かす先としてはおかしなものであった。アクローマは無慈悲な性格なので、黒にすることはできた。本質的に幻影なので、青にすることもできた。しかし、それにもまして、彼女は本当に怒った姿をしているので、我々は彼女の色を赤にすることにした。感情の具現と言えるキャラクターがいるとしたら、それはアクローマなのだ。
我々はまず、何をそのまま維持するかを決めることにした。「伝説のクリーチャー ― 天使」はそのままでなければならない。6/6であることは気に入っていたし、白マナを赤マナにしただけの同じマナ・コスト(不特定マナ5点と色マナ3点)にすることも決めた。天使なので、飛行もそのままにしたし、6/6なのでトランプルを持ったままにすることにした。また、敵対色2色に対するプロテクションを持っていることも気に入っていたので、色変更に伴ってプロテクション(黒)、プロテクション(赤)はプロテクション(白)、プロテクション(青)にして残した。そして、他はすべて変更することにした。
ここから変更を見ていこう。飛行、トランプル、プロテクション2つを除くと、アクローマは3つの能力を持っていた。先制攻撃、警戒、速攻である。先制攻撃と速攻は赤でも使えるが、それらをそのまま残すことにすると充分変わったという印象を与えられないだろうと考えた。従って、我々は新しくアクローマに持たせる能力を3つ見つけなければならないということになる。
これは簡単なことではない。白のアクローマで、非常に多くの赤のキーワードを使ってしまっていたからである。あらゆる選択肢を検討した上で、我々は最終的に「打ち消されない」と火吹き能力({R}:ターン終了時まで+1/+0)で行くことにした。しかし、もう1つ必要だった。そのとき、我々はこれが『時のらせん』ブロックの話であり、古いメカニズムを使う自由がいくらかあるということに気がついた。
アクローマはイクシドールによって作られた。ストーリー上で他に彼が作ったものと言えば、何があるだろうか。変異クリーチャーだ。(『オンスロート』ブロックで奇妙な土の蜘蛛を見かけたことがあれば、それはイクシドールの手によるものなのだ。)アクローマが変異を持っているとしたらどうだろうか。そうすると全く異なるプレイスタイルが可能になるだけでなく、彼女の重いマナ・コストをなんとかできるようにもなる。カードの出来に私は大満足だった。
次に行く前に、このカードについても触れておかなければなるまい。
アクローマを『時のらせん』と『次元の混乱』に入れたので、当然、『未来予知』にも入れなければならなくなった。デザインには「1つだけ欠けていることはユーザーを不機嫌にする」という格言がある。つまり、何か関連したグループがある場合、そのうち1つだけ欠けていると、パターンを崩されたと感じてユーザーは不快に感じるというのだ。目標を達成するためにその不快感を作り出すこともあるが、ただそれを扱いたいからというだけの理由ではなく、強い理由のために行なうというのでなければすべきではないことなのだ。
問題は、アクローマを『未来予知』に入れるというのは一体どういうことか、である。『時のらせん』は、過去のカードを再録した。『次元の混乱』は、もう1つの現在を描いた。では、『未来予知』では、アクローマをどうするべきだろうか。(セット内の他のカードでしたように)子孫を登場させることも検討したが、アクローマの物語はその方向に向かうようなものではなかった。
彼女が去った後、何か彼女を思い出すようなものがあるとしたらどうだろうか。そしてできたのが、《アクローマの記念碑》であった。実際は、カードのデザインをするよりも前にカード名が決まった。その後で、《アクローマの記念碑》というのは一体何をするものなのかという議論が始まったのだ。
これが自軍のクリーチャーをすべてアクローマになろうという「刺激」を与えるとしたらどうだろうか。クールな話だ。我々はこれを伝説のパーマネントにして、レアにした。(神話レアはまだ存在していなかった。)こうして、アクローマが「Head-to-Head」の勝者から3枚のサイクルになったのだった。
能力盛りだくさんの赤天使「憤怒の天使アクローマ」への愛に溢れた公式コラムとなっています!
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